第四十六候雷乃収声 (かみなりすなわちこえをおさむ)

七十二候「雷乃収声（かみなりすなわちこえをおさむ）」は、夏の象徴であった雷鳴が収まり、空が静けさを取り戻す頃を表します。秋の深まりとともに、大地は冬への支度を始めます。

雷乃収声とはどんな季節か

「雷乃収声」は二十四節気「秋分」の末候にあたり、9月下旬から10月初めにかけての時期を示します。夏に頻繁に響いた雷の声が次第に聞かれなくなる季節です。

雷は大気の熱気によって起こるため、気温が下がるこの時期には自然とその発生が減少します。雷の静まりは、季節の移ろいを象徴しています。

自然の音が変化することは、古代の人々にとって暦を知る手がかりとなり、七十二候として大切に記録されてきました。

雷は古来より神の声とされ、畏怖とともに信仰の対象でもありました。豊作をもたらす雨を呼ぶ存在として、農耕と深く結びついています。

「雷乃収声」の頃は稲刈りの季節と重なり、雷の収まりは収穫の終盤を告げる自然の合図でもありました。

人々は自然現象をただ恐れるだけでなく、暮らしや農業の営みに重ね、感謝や祈りの気持ちを込めてきたのです。

夏には雷鳴が空を震わせ、蝉の声が響きましたが、この時期になると虫の声が主役となり、自然の音色は落ち着きを増します。

雷が収まり、代わりに虫の音が夜を包むことは、日本の四季ならではの繊細な変化といえるでしょう。

耳を澄ませることで、雷の去りゆく季節と新しい季節の訪れを感じ取ることができます。

雷は文学や絵画でも大きな題材となってきました。夏の激しさや畏れを象徴する一方で、雷の収まりは静けさや安堵を表現します。

和歌や俳句では、雷の去った秋空を詠むことで、季節の移り変わりや心情を映し出してきました。

「雷乃収声」は、自然現象そのものに留まらず、文化や感性を育んできた季節の言葉といえるでしょう。

現代では雷の季節感を意識する機会は減りましたが、空を見上げ、耳を澄ませることで自然の変化を感じられます。

また、この時期には収穫祭や秋の実りを楽しむ習慣を取り入れることで、「雷乃収声」を暮らしの中に取り戻せます。

七十二候を意識して過ごすことは、自然と心を調和させ、豊かな時間を育む知恵となるでしょう。